世界が喜びで満ちる理由——讃美歌112番「諸人こぞりて」誕生物語

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世界が喜びで満ちる理由——讃美歌112番「諸人こぞりて」誕生物語

「Joy to the World(諸人こぞりて)」。クリスマスだけで終わらない“福音の喜び”の源泉を、歴史と聖書からやさしくたどります。

「諸人こぞりて」は、ただのクリスマスの定番曲ではありません。
長い歴史を旅してきた、「喜びの福音そのもの」を歌い上げる賛美です。
この歌がどのように生まれ、どんな想いを運んできたのか。
成り立ちのドラマを、心に灯りがともるように辿っていきます。

1|“退屈な賛美”を変えた青年――作詞家アイザック・ワッツ

1700年前後のイングランド。
礼拝では主に詩篇の逐語的な朗唱が歌われていました。
若き**アイザック・ワッツ(Isaac Watts, 1674–1748)**は、それを「心が燃えない」と嘆き、父に訴えます。
父は静かに言いました。
「それなら、おまえが『心燃える賛美』を書いてごらん。」

ワッツは決心します。
詩篇の内容を、新約の光(キリストの福音)に照らして言い換える

――そんな前代未聞の試みでした。
1719年、彼は『詩篇の新しい歌』を出版。
その中の「詩篇98篇」のパラフレーズが、のちに世界を満たす歌詞へ育ちます。
それが「Joy to the World(世界に喜び)」――日本語題「諸人こぞりて」です。

◉詩篇98篇は「主は王、主は来られた。地の果てまで主の救いを見よ」という勝利と普遍の喜びを高らかに告げる詩。
◉ワッツは、ここに“救い主イエスのご降誕・ご統治・ご再臨”の光を重ね、喜びのクライマックスを作りました。

2|“ハレルヤ”の息吹を受けた旋律――作曲家ロウェル・メイスン

歌詞が生まれてから約120年後。
アメリカの音楽教育の父と呼ばれるロウェル・メイスン(Lowell Mason, 1792–1872)が、この詞に旋律を与えます(1839)。
曲名は“Antioch(アンティオキア)”。

メイスンは、「ヘンデル」(『メサイア』の作曲者)の旋律動機を研究しており、
「諸人こぞりて」はしばしば、「ヘンデル風の雄大な息づかい」を感じさせると評されます。
(直接の引用かは学術的には議論があるものの、“ハレルヤ・コーラス”の高揚を思わせる上昇感は、たしかにこの曲の鼓動を作っています。)

こうして、「詩篇98×福音の光(ワッツ)」と、「祝祭の上昇線(メイスン)」が結婚しました。
歌は海を越え、時代を越え、「人類共通の“喜びの合言葉”」になっていきます。

3|日本への到来――「諸人こぞりて」として愛されるまで

明治以降、宣教師たちが讃美歌を携えて来日すると、
この曲はたちまち「クリスマス礼拝の扉を開く招待状」になりました。
「諸人こぞりて」というタイトルは、聖書が語る「普遍性」――“すべての民へ”“地の果てまで”――をよく表しています。

日本語歌詞は、原詩の「世界に喜び」だけでなく、
“こぞって(皆で)”“喜んで(心から)”“褒めたたえよ(礼拝へ)”という共同体の賛美のニュアンスを豊かに伝えます。
クリスマスの鐘が響くとき、世代も背景も越えて、“ご一緒に”と声を合わせられる――
その“共同性”こそ、この歌の力です。

4|この歌は「クリスマスだけ」の歌ではない

「諸人こぞりて」は降誕の歌として広く歌われますが、
ワッツの意図は“キリストの支配と完成”まで視野に入っています。

◉第一連は、

「主が来られた!」という喜び。

◉第二連以降は、

「主の統治」、「罪ののろいが解かれる」、「恵みとまことが満ちる」という、
受肉→贖い→王の統治→完成の流れを歌います。

だからこの歌は、「アドベント(待降節)」にも、「受難節・復活」の先取りにも、
さらには「再臨への待望」にもふさわしい、“福音全体”を歌う賛美なのです。

5 “喜び”はどこから来るのか――この歌が指す**福音の核心

喜びは状況の良さ”からではなく、イエス・キリストから」来ます。
聖書はこう語ります(新改訳第3版・要旨)。

ルカ2章:御使いは夜の野にいた羊飼いに告げます。
「恐れるな。すべての民に与えられる大きな喜びを告げ知らせる。
今日、救い主がお生まれになった。」(ルカ2:10–11 要旨)

◉ヨハネ3:16:
「神は、実に、そのひとり子をお与えになったほどに、世を愛された。
御子を信じる者が一人として滅びることなく、永遠のいのちを持つためである。」

◉Ⅰコリント15:3–4:
「キリストは私たちの罪のために死なれ葬られ三日目によみがえられた。

◉詩篇98:
「主は救いを知らせ、を国々の前に現された。
全地よ、主に向かって喜びの声をあげよ。」(要旨)

聖書は証言します。
◉キリストの十字架は、私の罪の身代わりの死
 復活は、死に対する絶対的勝利
この福音を信じる者は、罪赦され、滅びから救われ、永遠の天国が保証されます。
これが神の約束です(ローマ10:9、ヨハネ5:24 など)。

だから、「諸人こぞりて」は
“いいことがあったから喜ぼう”ではなく、
“救い主がおられるから喜ぼう”と招く賛美。
喜びの**源泉が神ご自身**に置かれているから、
涙の日にも、心は**静かに上を向ける**のです。

6|歌詞のエッセンス(英語→直訳ニュアンス)

原詩(英語)の要点を、学びの目的で短く直訳風に示します。

Joy to the world! the Lord is come;
世界よ、喜べ。「主が来られた。」

Let earth receive her King;
地は「その王をお迎えせよ。」

Let every heart prepare Him room,
すべての心は、主に「居場所を整えよ。」

And heaven and nature sing.
天も自然も「歌え。」

No more let sins and sorrows grow, nor thorns infest the ground;
もう「罪と悲しみ」が増し加わるな。「いばら」が地を覆うな。

He comes to make His blessings flow far as the curse is found.
主は来られた。「のろいの及ぶところ」全てに祝福を「満ちわたらせる」ために。

He rules the world with truth and grace, and makes the nations prove the glories of His righteousness and wonders of His love.
主は「まことと恵み」をもって世界を治め、
国々に、主の「義の栄光」と「愛の驚き」を味わわせられる。

この直訳が教えるのは、
到来(来られた)贖い(のろいの解除)統治(真理と恵み)という、福音の大河です。

7|“いま”のあなたへ――三つの実践

① 心に部屋を作る(Prepare Him room)
一日のどこか3分、静かに目を閉じます。
「主よ。あなたご自身の居場所を私の心に整えます。」と短く祈ります。

② 詩篇98篇を声に出して読む
「主は来られた。全地よ、喜び叫べ。」
声に出すと、心の芯に「喜びの芯」が立ちます。

③ 喜びを分かち合う
一人で歌うより、「一緒に歌う」と喜びは増幅します。
家族と、友人と、教会と。
(諸人)こぞりて”の喜びを。

8|結び――諸人こぞりて、いまここから

この賛美は、「歴史(詩篇98)」と「福音(キリスト)」を一本に結び、
「喜びの行進」へ私たちを招きます。
ワッツは紙の上に火を点けメイスンは旋律に息を吹き込み
世界中の人々が“こぞって”その火を掲げて歩いてきました。

あなたの今日がどれほど忙しく、重たく、つらくても、悲しくても。
「主は来られた」――この一点で、世界はもう同じではありません。
罪ののろいは、もはやわたしたちの支配者ではありません。
キリストこそ王です。
だから、喜べます。

さあ、声を合わせましょう。
諸人こぞりて、主をほめたたえよ。
それは、季節の歌ではなく、「救いの歌」。
あなたの心に、そして地の果てまで、喜びが満ちわたりますように。アーメン

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